ホテル宿泊がカード不正利用のターゲットに
インバウンド訪日外国人の増加
都内を歩いていてもインバウンドによる外国人旅行客が非常に多く見かけられるようになりました。
今年2019年はラグビーのワールドカップ、そして来年2020年には東京オリンピックが開催され、さらなる外国人が日本を訪れることも予想されます。
今や多くのレジャー施設やホテル、水族館、動物園、スカイツリーや東京タワーなど、外国人にとって日本に来たのであれば訪れるであろう観光地では、オンラインチケットの事前予約・事前購入も非常に一般的になりました。
チケットサイトでは多言語に対応し、各国の主要な支払方法を充実し、実際の観光施設でも場所によっては外国人スタッフを配置するなど、各国の観光客向けのサービス体制を強化しています。
訪日外国人の増加の闇
一方で、こうしたインバウンド訪日外国人の増加による”闇”の部分も、見えない所で大きくなりつつあります。
その一つが不正なクレジットカード利用によるチャージバックの問題、とりわけホテルなど宿泊施設に対する不正なカード決済が2019年に入り急増しています。
いくつかのメディアでは「不正トラベル」としてニュースになったこともありましたが、要するに不正に入手したクレジットカードを用いて宿泊を転売する、という手口が横行しており、関係各社が頭を悩ませています。
▲不正トラベルの概要
宿泊客である外国人はオンラインで旅行を手配することに慣れており、この転売業者(不正をはたらく旅行代理店)が正規な事業者か、不正事業者かを識別することは難しく、また日本における旅行業法のような規定が存在しない国や地域もあります。
宿泊施設目線では、不正なクレジットカード情報による宿泊であると認知できるまでに時間がかかるため、チャージバックの通知を受けた頃には、宿泊客はチェックアウトしてしまっています。国外に出国してしまっているのであれば、事情をヒアリングするにも、日本の法律や警察の手が届きにくいこともこの手口の抑制の足枷となっています。
仮に宿泊客の滞在中にクレジットカード不正利用が発覚したとしても、少なくとも宿泊客は正規の費用を支払っている認識でいるため、支払いを要求することで大きなトラブルに繋がる可能性もあります。
せっかく渡航先として日本を選んでくれたにも関わらず、貴重な滞在期間に苦い思いをさせてしまうのは心苦しい限りであり、ホスピタリティを重要視する施設側は、宿泊客に声をかけにくい、といった実態もあります。(宿泊費用を受領できないにもかかわらず・・・)
レジャー業界における不正の変遷
宿泊施設では兼ねてから予約だけするものの当日連絡もなく現地に来ない、NoShowの問題や、昨今ではチェックアウト時に不要になったスーツケースを放置して部屋を後にする、といったトラブルが発生し、ゲストへのおもてなしに注力するスタッフを悩ませてきました。スーツケースを施設側が処分するため数千円の費用がかかってしまうことはあまり知られていません。
特に、前者のNoShowの問題は宿泊施設だけでなく、飲食業界でもSNSで取り上げられ問題になることもあり比較的認知度は高い問題です。
予約を受け付け部屋を確保していたにもかかわらず、連絡もなく来ないため、もし別のお客様から宿泊のリクエストを受けお断りしていたとすると、宿泊施設としては機会損失が生じたことになります。
また、ホテルではなく、豪勢な夕食に魅力のある老舗旅館などでは、こうした食材を破棄せざるを得ないため、この様な損失も少なくありません。
宿泊キャンセルの場合は予め受領していたクレジットカードに対し、規定のキャンセル料をチャージする事もありますが、中にはこうしたキャンセル料のカード課金に対してもチャージバックされてしまうケースもあります。
中には、ホテルのブランドイメージを気にするため、キャンセルチャージは行わない運用を採択している会社もあるようです(あきらめている、という表現の方が正確かもしれません)。
不正トラベルによる被害の急増
さらに、業界の課題は時代と共に変化します。
2018年頃からこの不正トラベルによる被害が徐々に増え始め、まずは大手OTAがターゲットにされ、彼らが不正対策を講じると共に、徐々にターゲットはセキュリティの低い、ホテル公式予約サイトや特殊な決済手段のみをアタックするようになりました。
ホテル運営事業者では「このような被害に遭うのもはじめてで、チャージバックというルールが存在する事もはじめて知った」とお話しする方もいらっしゃいました。
増加傾向であることは当社アクルへのお問合せ・ご相談件数の増加からも肌感覚で感じていましたが、2019年の上期頃から被害が驚くほどの勢いで急増しています。
宿泊業界といっても様々なレイヤーや業態が存在するため一概に一括りにすることは難しいですが、2019年だけでも被害金額は数億から数十億円レベルに昇るのでは、と試算しています。2019年下期の被害の拡大がこのまま進めば、それ以上の被害金額になる可能性もありそうです。
旅行業界の発展のためにもセキュリティ投資を
このまま日本の旅行業界のセキュリティが国際基準に届かないままに2020年の(記念すべき!)東京オリンピック開催時期に突入してしまうことで、業界各社・現場のスタッフが努力を重ねたにも関わらず、その対価が業界各社ではなく、不正利用者に搾取されてしまうことが懸念されます。
日々、こうした宿泊施設の支配人さん、オンライン予約サイトのマーケティング担当の方々とお話させて頂いていますが、自社のホテルに泊まってもらおうと趣向を凝らし、様々な取り組みを進めていらっしゃいます。こうした試行錯誤の成果がクレジットカードの不正利用による横取りを許してはいけません。
当社アクルでも、業界の健全な発展のため、業界各社とタッグを組みながらクレジットカード決済環境のセキュリティ強化を推進して行きます。