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「クレジットカード=便利」はこの先も続くのか?_事業者が見直すべき決済体験の現在地

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ECで主流のクレジットカード決済──本当に「便利」と言える時代は続いているのか? 3Dセキュアの認証ステップにより離脱率が上昇し、カード承認エラーによる購入失敗も増加する昨今。かつて絶対的だった「クレカ決済の優位性」に陰りが見え始めています。 本記事では、ユーザー体験を損なうリスクや競合するQR決済との違いを整理し、EC事業者が見直すべき“これからの決済UX”について考察します。

ECサイトにおける決済手段の選定は、コンバージョン率や顧客満足度に直結する極めて重要な要素です。中でもクレジットカード決済は、長らく「便利」「信頼できる」手段として標準的に導入されてきました。

しかし昨今、その「便利さ」に陰りが見え始めているのをご存知でしょうか? 実際のユーザー体験や決済途中での離脱率、決済承認の状況などを見ていくと、EC事業者として無視できない課題が浮き彫りになってきます。

こちらでは、クレジットカード決済の現状と限界、そして今後求められる「決済UX」について解説します。


■ 3Dセキュアで利便性が損なわれていないか?

近年、クレジットカード各社が推進する「3Dセキュア(本人認証)」の導入が進んでいます。これは、カード情報だけでなく、パスワードやワンタイムコードなどで本人確認を行うことで、不正利用を防止する仕組みです。

セキュリティ面では歓迎すべき動きですが、ECサイト上のユーザー体験という視点では要注意です。

  • 認証画面への遷移がスムーズでない
  • スマホでの画面切り替えが煩雑
  • ワンタイムパスワードが届かない・時間切れ
  • 操作が面倒でカゴ落ちしてしまう

こうした問題から、決済途中での離脱(=機会損失)が増えているという声も増えています。

実際、3Dセキュアの「チャレンジ認証」(=認証画面が表示されるフロー:クレジット取引の50%前後が認証画面へ)に進んだユーザーのうち、約18%が購入に至らないというデータもあります。つまり、ユーザーの約5人に1人が、認証ステップで決済を諦めているのです。

特にスマートフォンユーザーが大多数を占める現代のECにおいて、数秒の煩雑さは致命的になりかねません。安全性の追求が、かえって利便性と売上を損なう結果になっている可能性がある点を、事業者は真剣に捉えるべきです。


■ カード決済でも「通らない」ことが増えている?

さらに、最近ではカード会社の承認率の低下も問題視されています。セキュリティ強化の一環として、カード会社保有の不正検知システムでの判断が厳しくなっており、ユーザーが正しく入力していても「決済エラー」になるケースが見受けられます。

例えば:

  • 初回購入の高額決済
  • 海外製品・越境EC
  • 深夜帯や異常*行動パターン
    *複数連続購入など(筆者は過去にエアコン4台購入時に困りました。)

こうした条件が重なると、システムがリスクと判断し、決済をブロックしてしまうのです。これにより、ユーザーは「カードが使えなかった」という体験をし、不信感を抱いてそのまま離脱してしまうことになります。


■ 中国系決済サービスに学ぶ「決済UX」

一方で、急速に普及しているのが中国発のQRコード決済やモバイルウォレット型サービスです。代表例としては Alipay や WeChat Pay があり、中国本土では現金を凌駕するほどに浸透しています。

注目すべきは、ユーザー体験とセキュリティを高次元で両立している点です。

  • スマホ1つで完結
  • 生体認証(顔・指紋)による本人確認
  • 即時決済、即時通知
  • カード番号の入力不要、トークン化された情報
  • チャージ式 or 即時引き落としで不正リスクを低減

これらの仕組みにより、ユーザーは安心して、迷わず、ストレスなく決済を完了できます。結果的にカゴ落ち率も抑えられ、リピートにもつながります。


■ 実際に「安全」なのか?

中国系決済が「安全」と評価されているのは、以下の理由によります:

  1. リアルタイムの生体認証
    → なりすましが困難。カード情報漏洩のリスクがそもそも存在しない。
  2. ワンタイムのQRコード/トークン方式
    → 毎回異なるコードで使い回し不可。スキミング対策としても有効。
  3. チャージ式や即時引き落としによる損失抑制
    → 被害が出ても金額は限定的。
  4. AIによる不正検知と利用パターン監視
    → 不審な挙動を即座にブロック。

これらは、クレジットカードの「静的な番号を保持する」設計とは根本的に異なり、不正が起こりにくい構造そのものに工夫があるのが特徴です。


■ EC事業者が今考えるべきこと

現時点でクレジットカードを外す必要はありませんが、以下の点を意識する必要があります:

  • 3Dセキュアの導入時はUI設計も考慮する
  • エラー時のリカバリー動線(リトライ・別手段提示)を整備する
  • カード以外の決済手段も充実させる(QR決済、ウォレット決済、あと払いなど)
  • 若年層やインバウンド利用者のニーズ(中国系決済)を取り込む視点を持つ

海外展開を視野に入れていない事業者であっても、在住外国人や、旅先である日本でのウェブ購入や転送会社を利用した購入など、中国系や東南アジア向けの決済サービスを導入することが、大きな競争優位につながる可能性もあります。


■ 結論:決済体験のアップデートは“待ったなし”

「クレジットカード=便利」は、もはや絶対的な価値ではありません。セキュリティの強化によって利便性が損なわれている今、ユーザー体験を損ねず、かつ安心できる決済手段を提供することが、EC事業者にとっての最重要課題です。

他国の決済UXから学び、柔軟に取り入れていくことが、今後の成長を左右します。

「どの決済手段を選ぶか」ではなく、
「ユーザーが最後までストレスなく支払えるか」を起点に、
今一度、自社の決済導線を見直してみるのはいかがでしょうか。

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